エルム街の悪夢

監督:ウェス・クレイブン


A NIGHTMARE ON ELM STREET

☆「1・2 フレディがやってくる・・・」

 私が目覚めると、そこは晴れた日の野原の真ん中だった。近くには子供達が遊んでいる声。
 明るい日の下、少女たちが縄跳びで遊んでいて、一見無邪気な光景。
 しかし子供たちが歌っている歌はとてもおぞましい内容で、「1・2 フレディがやってくる・・・」
 遊んでいる子供達に近寄ると、子供が家の絵を描いている。その絵の中には恐ろしい姿をした男が・・・
 それを見て私は少し驚く。その途端にドス黒い雨が振り出し、子供達はいつの間にか姿を消している。
 そして、目の前の家に誘われるように私は家の中に入って行った。
 その家は、子供の描いた絵そっくりの・・・

 この光景はその後のシリーズでも繰り返し使われるシーンなんですが、このように「エルム街の悪夢」シリーズでは明るいシーンから暗いシーンへの転換がうまいんですね。そして登場人物たちの「現実」と「悪夢(フレディの世界)」との境界が段々ぼやけていく辺りがいつも見事です。

☆人間は、悪夢に勝てるのか?

 全ての生き物は、睡眠をとらないで生きる事は出来ません。それは我々人間とて例外ではありません。
 しかしその睡眠という状態は非常に無力です。特に「夢の中」では。
 もし、そういう場所で襲いかかるモノがいたとしたら、それこそまさに悪夢でしょう。
 しかも逃げる方法は、自分が目覚める以外にないとしたら・・・

 「エルム街の悪夢」のフレディは、夢の中を自在に動けますし、夢の内容を操作する事も出来る悪魔のような男です。そして、彼には実体はあるとも、ないとも言えます。というのは夢の中だと彼に触る事も出来るが、現実の世界でこちらから彼に触る事は出来ない(しかし、彼からは現実の世界で襲う事も出来る)のです。
 そしてフレディは、今日も彼の領域に迷い込んだ獲物をゆっくりといたぶって殺していくのです。

 第1作では、フレディは過去において、連続少年少女殺人事件の犯人として逮捕され、しかしある間違いが原因で釈放されるも、怒り狂った住民によってリンチにかけられ、火あぶりにされて殺された殺人鬼という説明がされます。しかし、彼は死んだ後に何故か悪夢の中で行動する力を得て、また少年少女を殺し続けているのです。
 そして、彼が殺しに使うのは、爪とぎをくくりつけた手袋(海外の爪とぎはナイフのように切れる物らしいです。見たことはありませんが)で、時にはその爪で鉄パイプなどを引っ掻いてわざと嫌な音をたてて怖がらせたり・・・

 そして第2作からはフレディの存在自体が超自然的な物になってきます。しかも、時にはいきなり現実の世界に干渉して、いつの間にか悪夢の世界に引きずり込んだりと手口もどんどんグレートアップしていきます。
 それに対して、被害者たちもただ殺されるだけでなく、夢をコントロールしたり、夢の中で自分の姿を変えるなどしてフレディに対抗しようとするようになります。結局はフレディの方が一枚上手だったりして殺されるのですが、この辺りの展開は結構見物です。
 こういう展開が、他のホラー映画と違ってシリーズ展開に成功した要素なのでしょう。実際ホラーが苦手な私でも、エルム街シリーズは割と楽しめましたし。

 ただ、話の方はフレディの正体とかフレディの出生の秘密だとか、余計な話ばかりを後から後から付け足して話をムチャクチャにしている印象も否めません。
 この関係で、頭にきた第1作目のスタッフ(誰だかは知らないけど多分シナリオの人?)が最終作「ザ・リアルナイトメア」では「フレディは遙かな古代から生きている人智を超えた存在」って事にしてしまったらしいです(苦笑)私は見ていないので何とも言えませんが。

 でも映像的に凄いシーンも多いので、そういう意味では見ておいた方がいいかもしれません。
 私が印象に残っているのは、シリーズ後期の作品で、どの辺りの話かは忘れましたが、フレディの呪われた出生の映像が出てくるシーンです。ここではなんというか、まさに夢の世界としか言いようがない映像になっているのです。このシーンは言葉で説明しにくいので自分の目で見て下さい。

☆巧妙な筋書き

 しかし「エルム街」シリーズは、話の筋書きも他のホラーに比べると設定自体はかなり単純ですが、舞台の移り変わりはとても巧妙です。
 例えば1作目でもフレディが現実の世界に出てきて人を殺すなど現実と悪夢の境界がぼやけてしまう演出があります。
 しかし後期のシリーズだと、さらに巧妙になっていて、「悪夢の中で殺した」と思わせておいて、その人が目覚めた直後に現実の世界で死ぬように誘導しているなど単純な話ではなくなってきて、結構唸らせてくれます。
 これも、フレディのキャラクター性だから出来る事で(ジェイソンとかブギーマン(注1)じゃこういう話はそもそも無理でしょう)、こういうアイデア性をうまく使ったのは見事でしょう。
 もっとも、先にも述べたようにフレディの出生が云々のように、余計な話をゴチャゴチャ付けているのも確かなので手放しでは誉められませんが・・・それでもアイデアの膨らませ方としてはうまいと思いますね。

 ちなみに小説というか、ノベライセーションの「エルム街の悪夢」もあり、これは上下巻で1作目から数作目までを収録した内容になっていました。確か「ドリームチャイルド」辺りまで入っていたと思います。新品での入手は厳しいかもしれませんが、古本で見つかる可能性はあると思います。

 そうそう、シリーズを見たいのならば、今ではDVDでシリーズの1〜3が出ているので、DVDで見るのが一番簡単だと思います。ビデオレンタルだと、何故か1作目だけがない事が多いようです。

 追記:2003年現在、DVDは廃盤。

 注1:ジェイソンは「13日の金曜日」の殺人鬼、ブギーマンは「ハロウィン」の殺人鬼。どっちも不死身。

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 しかしコレを見た後に眠る勇気はさすがにないなぁ・・・(苦笑)