朱紅い雫
英雄伝説IV

ファルコム RPG Win


The Legend of Heroes IV A Tear of Vermilion

☆今度は善悪の物語?

 さて、ここからは「ネタバレ版」ということで、主に変更されたシナリオ関連と、それに関する不満点(と言い切れない部分もあるけど)を挙げていきましょう。

 PC-98版「朱紅い雫」(以下、旧作と記す)では、大前提として次のような話がありました。

 かつて、天界で神々の争いがあった。
 太古より続くバルドゥスとオクトゥムの争い。
 大地は天界の水鏡・・・
 まもなくすると、動乱の炎は大地にも飛び火した。
 それ以来、2つの宗派は互いに傷付け、憎しみ、そして争い続けていた。
 バルドゥスに与し者、オクトゥムに与し者。
 人に発端を知るすべはない。
 太古の因縁は、大地に眠るバルドゥスの御霊と共に、今も生き続けている。

 このように、2つの神々は「どちらが善で、どちらが悪」という存在ではありません。それどころか、神々の争いがどのようにして始まったのかを知る者もない−だから旧作では「第3の存在」としての精霊神ドゥルガー、そして2つの宗派の争いの「始まり」を見極めるまでが長いプロローグのような物でした。
 ですが、リメイク版では、この設定が根本的に変更されたような感じで、例えばバルドゥスとオクトゥムは「不可分の存在である」とし、そのすぐそばにドゥルガーを配置した格好になっています。

 さらに2つの宗派の存在も、片方が「バルドゥス教会」、片方が「オクトゥムの使徒」と変更された上で、特に「オクトゥムの使徒」の存在感が旧作とはかなり毛色が異なっている印象を受けます。
 元々旧作では、バルドゥス派の勢力に押されて、少しずつ衰退しかけていたオクトゥム派がカテドラールを襲撃し、それ以降はバルドゥス派と勢力を均衡させていた・・・という印象だったと記憶しているだけでなく、(オクトゥム派は)特定の本拠地というのが表にはあまり出ていなかったと思います。
 さらに、旧作ではバルドゥス派とオクトゥム派の争いは誰の目にも見えるほどに出てきており、その為にエル・フィルディン王家も「2つの宗派の争いに関しては不干渉の立場をとる」−となっていました。ただしゲーム中でこの事がはっきりと語られる事はありませんでしたが(元々王家の存在が稀薄だったし・・・)。

 これがリメイク版では「邪教集団」としての性質をやや強調しているように思われるのです。それゆえに、いかにも「善悪物語」といった風になっている、と。
 もちろん、こう感じるのは他にも理由がいくつかあります。

 例えば、旧作でのアヴィンは、度重なる悲劇を味わい、自暴自棄になりかけます。
 その時にバルドゥス派の最高導師エスペリウスに「誰も始まりを知らない。だからこそ、お前が始まりを見極めてきて欲しいのだ」と言われて始めて、自分の意志で動きだす−その後の展開も関係して、やがては神々の存在がそもそもが善でも悪でもなかった。むしろ、第3の神であるドゥルガーを崇拝する者には「どちらも邪悪に見えた」事を知ります。
 このように、旧作では神々の存在にそのまま寄り掛かり続ける事からの脱却がテーマになっており、決して善悪物語ではありませんでした。ただし、テーマが少々暗い事もあって少々わかりにくかったのも事実です。

 こうした、言いかえれば「アヴィンの成長物語」とも言うべき部分がリメイク版ではかなりカットされてしまい、多くの場合「バルドゥス教会の者に言われるまま」行動しているのが気になります。
 もちろんアヴィンの考えの変化は書かれているけど、その根本の部分が旧作ほどは重く感じられないのですね。その代わり終始アヴィンの行動が「アイメルを助ける」事にウェイトを置かれているようにも思われましたが(旧作ではアイメル自体が物語から降りるからなぁ・・・)。
 こういう変更もあって、リメイク版では「バルドゥス教会は善、オクトゥムの使徒は悪」といった印象の方が強まった上で、物語はわかりやすく整理されています。これはテンポを良くするのにも一役買っているのは確かですが、旧作の「重み」が好きだった人には残念に思うかもしれません。
 私も、「わかりやすくなった」点は誉めたいけれども、「重さ」がかなりカットされたのは残念に思います(特にアヴィンのあの叫びが消えたのは・・・(涙))。明るくなったのはいいんだけどね。

☆「ドゥルガーの娘」って何よ?

 今回の変更で一番気になったのは、やっぱり「ドゥルガーの娘」の存在でしょう。
 旧作ではそんな設定は出てこなかったのに、今回は「ドゥルガーの娘」が存在するという事から、アイメルの行動、マドラムの存在などいくつかの部分が変更になっています。
 けど、マドラムに関してはその存在がいきなり軽くなってしまった感があります。そりゃ「神々への復讐」などを絡めるまでは良かったと思うのだけど、後半でいきなり「何じゃそら?」といった展開になるのは頂けません(少なくとも、それまでの位置付けがいきなり軽くなってしまった感が残る)。
 これだったら、旧作のマドラムの方が良かったと思うんだけどね・・・一部は良くなっている部分(マドラムの行動の動機がより明確になった、など)があっただけに惜しいです。

 それから、アイメルの設定が変更になった為に、本筋の流れが中盤からはもう別物に変わってしまっていますね。これは仕方ないのでしょうけど・・・
 リメイク版の方の展開は、これはこれで前向きではあるんだけど、先述のように「始まり」を見極める部分の「重み」が消えてしまってるのが惜しいなぁと。それにアヴィンが使い走りに終始しているのがちょっと情けない(アヴィンの意志が出てくる場面が減っている)。

 それにドゥルガーの配置も、旧作とかなり異なっていますが、実はこれが結構不満だったりします。
 というのは、旧作ではドゥルガーを崇拝する者たちが残した遺跡がエル・フィルディンの一部に遺されているという設定が割と好きだったんだけど、それらの存在なども変更になっちゃってるし、「ガガーブ3部作」としての整合性をとる為か「遺跡を遺したのは別の民族」という事になってるし・・・で。
 私は旧作の「今では表に出てくる事がないが、でもひっそりと、地方にはまだ信仰が残っている」という感じが好きだったのになぁ。
 あと4精霊も含めた精霊のデザイン、なんでわざわざ人型に変えたんですか?「親しみやすいように」という配慮なんだろうけど、個人的にはちょっと余計。旧作では神々がみんな化け物といったデザインとしていたんで、「善悪物語ではない」という印象があったのに。まぁ、大前提自体が変更になってるから仕方ないのだろうけど・・・
 ついでに言えば、精霊の名前も旧作の方が好みだった・・・ま、こっちは好みの問題だが。(ちなみに戦闘シーンでわかる名前の方。「黒き死の〜」とかそういう感じの・・・あまり覚えてないけど(汗))

☆その他の変更について

 旧作で好きだったシーンがいくつかあるんですが、その大半が変更されているのも個人的には悔しかったりします。
 例えば、ミッシェル関連のイベントの大半。特にミッシェル初登場のシーンでのカッコよさにはシビれたものだし、「ティラスイールから魔法修業の為にエル・フィルディンに来ている」という設定が(「白き魔女」を知っている者として)少し嬉しかったりするんだけど、それらが全部別物になっちゃってますし。何より、ミッシェルの性格が少し軽くなっちゃってるような(苦笑)
 ただ、まぁ・・・ミッシェルは本当に設定上「使えすぎる」キャラなので、旧作よりももっと脇役にしたかっただろうというのはわかるのですけどね。
 それと少し関連して、「エスペランサー」の由来が変更されてるというのも・・・特に変更後の方は演出が少し下手(言っちゃ悪いけど、実際下手だと思います・・・)という事もあって悲しかったり。

 エンディングの方は、うーん・・・少し複雑な心境かなぁ。
 アヴィンとルティスの関係を強調したのはいいと思う。けど、「神々の時代が終わり、人々は巣立ちの時を迎えた」という感動がいくらか薄れてしまったのも確かだし。ここは難しいところですが、もう少し頑張って欲しかった。一応書いておくけど、結構好きは好きなんですよ。ただ、もう少し整理・演出をうまくして欲しかったと・・・

 ここまで書いていて言うのも何ですが・・・不満だらけのように見えるけど、今回の変更の方がいいと思うシーンも実際多いと思います(特に旧作で目立たなかったサブキャラ関連は今回のような変更が嬉しい)。
 それに変更点のいくつかも、すぐ後につながる「海の檻歌」につなげる為の伏線を新しく入れる為の物だから、それなりに納得は出来ます(旧作を知っていると違和感があるのも確かだけどね)。しかし、その為に元々は「ガガーブ3部作からやや独立した感じのシナリオ」という印象のあった旧作のイメージがいくらか変わってるのも事実。
 だから旧作を知っていると、違和感がどうしても出てしまうのだけど・・・これは仕方ないかなぁ。リメイク物の宿命とも言えるし。だから「どっちがいい」と簡単に割り切れないんで、難しいですね。それに、旧作自体がかなり古いし(汗)
 ちなみに私は「7対3の割合で満足」というところか。

 欲を言えば、個人的にはラスボス戦を変更しないでくれればもっと嬉しかったけどね。こればっかりは旧作の方が「神々の時代を終わらせて、人の巣立ちの時を迎える」って感じで好きだったので。
 ・・・でも、旧作だとパーティ構成と育て方によってはラスボス戦がもの凄く厳しいけど(汗)

☆とりあえず、の答え。

 とりあえず、シナリオの変更に関して、いくつかの不満はあるものの、それでもいい所も増えているのも事実だし、全体としてはまとまって、よりわかりやすくなった点は認めたいです。
 実はこういうリメイクの度合いが、一番答えを出しにくいのですね。今までは「賛否」のどっちに入れるかがまだわかりやすいリメイク物の方が多かったのだけど、こうも「改善」と「改悪」が入り混じってると・・・(汗)
 そういう訳で、ここでは「とりあえずの答え」として、こう答えておきましょう。
 『「遊びやすさ」を重視したシステムの変更は歓迎。ただしゲームバランスは中盤をもう少し難しくしても良かったと思う。シナリオの変更は不満と満足が入り混じってものすごく微妙な感じで、複雑な心境だ』、と。

 実際最後まで楽しんだは楽しんだしねぇ・・・だから答えが出しにくいのだけれど。

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 「ガガーブ3部作の1作」として捉えるか、旧作のリメイクとして捉えるかでも評価が結構変わるし、良くも悪くも玉虫色の評価しか出せないんですよ。
 だから「旧作もリメイク版も好きは好き」程度しか言えないんだが・・・うーむ。

 あ、あとゲームとしての評価とは関係ないけど、「レッドパッケージ」の告知がファルコムサイトでだけ、というのは頂けないなぁ。WWWを利用している人でも、必ずファルコムサイトを見に行くとは限らない(実際WWWを利用しているファルコムファンで見てない人も結構いる)のだから。雑誌でも何らかの形でのフォローをして欲しかったと思う。
 確かに期間が限られすぎていたというのはわかるんだが(汗)(ちなみにレッドパッケージの告知がファルコムサイトに出たのは確か1ヶ月程度前からだったような・・・普通、もっと早くから決めないか?こういうのは)