Title:偽典・ペガーナの神々:ブウブウギイのこと
ブウブウギイのこと
(飽食と美食の神)
ブウブウギイは、飽食と美食の神である。
ペガーナの南先端、緑の森林に覆われたアヴァガン山の奥深くに、ブウブウギイはいる。
ブウブウギイは、捧げ物を食べるだけでなく、ペガーナの全土を練り歩き、数々の珍宝なる果樹を探し求めてはそれを食い、食を愉しむ。
ブウブウギイが飽食と美食とを愉しむがゆえに、人は食に愉しみを見いだす。ブウブウギイがあるからこそ、獣も人も<好みの味>というものを知るようになったのだ、と人はいう。
やがてブウブウギイは百と十もの果樹を食い飽きてしまった。そこでブウブウギイは、新たなる飽食を味わおうと、獣を狩るようになった。そうなってからは、ブウブウギイの民は捧げ物に数々の獣の肉を捧げるようになった。
そうして今度は、二百と八の獣を狩り続けるのに飽きて、ブウブウギイは新たな飽食と美食とを求めるようになった。
ブウブウギイはうなり声を上げた。「我に新たな味を捧げよ、さらなる味を捧げよ」
そこでブウブウギイの民とブウブウギイの神官たちは集まってそれぞれの考えを出し合いながら、新たに<料理>を創りはじめた。そうして、ブウブウギイの民と神官たちは百と八の料理をブウブウギイに捧げた。こうして、<料理>というものがはじまった。
しかしブウブウギイは<料理>にも飽き、自らの手でブウブウギイの民と神官たちとを捕らえて、その口に投げ入れるようになった。それだけではない、ブウブウギイはペガーナの全土を練り歩き、数々の特徴ある人びととを捕らえてはその口に投げ入れたりもする。
そうして、他の神々の民と神官たちにもその手が伸びようとしていたそのとき、ペガーナの神々たちは怒りながら言った、「汝(なれ)が民をどうしょうと、汝(なれ)の勝手である。しかし我らの民に手を出してはならぬ」と。
そこでブウブウギイは言った。「しかし我はこれまでに百と十の果樹と、二百と八の獣と、その他あまたの人とを味わった。そして人の次には何を食えばいいのだ。我は飽食と美食の神であるがゆえに、あらゆる物を食わねばならぬ」と。
それを聞いたペガーナの神々たちは、お互いの顔を合わせながら言った。「果樹と、獣と、人とを食い、この上はさらに何を食うという。まさか我ら神々ではあるまいな」
するとブウブウギイは言った。「なれば、我は大地と海とを食い尽くし、その果てには神々をも食ってやろう」
そこでペガーナの神々たちは怒りにうち震えながらも各々(おのおの)の印形(しるし)をむすび、ブウブウギイをアヴァガン山の奥深くに閉じこめると、その口に扉を立てた。こうしてブウブウギイは今もアヴァガン山にいるのだという。
その扉は何者をも通さぬが、しかしブウブウギイのうなり声だけは阻むことができずにアヴァガン山から漏れてくるのだという。その声はこう聞こえるのだ−−ヴァグザン、ヴァグザンと。この言葉は遙かな遠方の言葉であり、ペガーナの神々たちにもその意味が知られることがない。
やがては<終末の日>がくると、アヴァガン山が崩れ去り、そのときにブウブウギイはふたたび大地にあらわれて飽食と美食を求めようとする。しかしその目にはマアナ=ユウド=スウシャイの目覚めだけが映り、そうしてブウブウギイも神々も、すべて消え去ってしまうのだ、という。
Webページなどへの無断転載はお断りします。
引用する場合は、必ず引用元を記載してください。