DEUS MACHINA DEMONBANE
所はアーカムシティ。
科学と、そして錬金術によって成長した大都市。
「ブラック・ロッジ」の繰る巨大ロボットが犯罪を起こすような。
余所の者が見たらほぼ間違いなく、悪い夢を見ているのかと思うような、そんな事件が続出する街。
それが此処、アーカムシティ。
そんなイカれた街であっても、その中で生活する者はいる。
大十字九郎も、そうした一人であった。
自称「探偵」。
そんな職業であっても、依頼がなければ仕事があるはずもなく。
たまに依頼があったと思えば、飼い猫探しときたもんだ。
そしていつものように金が底を突き、いつものように知人のライカの所へメシをたかりに行って、ガキどもと遊ぶ、そんな日々である。
その日常が変わったのはいつからだったろうか。
「貴方にこそ相応しい仕事です。大十字九郎さん」
そう言いながら、覇道の姫さんがやって来た時からだろうか。
それとも、空から降ってきた――否、落ちてきた少女に潰された、もとい、出会った時からだろうか。
もしくは、思い浮かべるのも嫌になるような○○○○に出会った時からだろうか。
あるいは、巨大な鬼械神――デモンベインに出会った時からだろうか。
ともあれ、九郎の運命は大きく変わっていくことになる。
その運命は異形の神が導くまま、果て知らぬ永劫に向かうのか。
また、あるいは――
元々は興味があるという程度だったんですが、「これクトゥルー神話の要素の使い方が凄いぞ」という評判があちこちで出てきたのと、「ダンセイニ」が出ていると聞いて、慌てて買って遊んでみたらびっくり。
本当に、よくこれだけの素材を見事に調和させて料理したなあ。
これが正直な感想。
というのも、今までクトゥルー神話を元にしたり、あるいはクトゥルー神話の要素を入れたゲームというのはいくつも出ていました。で、そうしたゲームって、ほとんどがシリアスな内容の物が大半なんですよね。つまり「ホラー」や「サスペンス」の雰囲気を持ったゲームが大半な訳です。
だけど、「デモンベイン」はそうじゃない。いやシリアスな場面も多いけど、それ以上にギャグな場面やアクションシーンが目立つんですよね。それもスーパーロボット系みたいな感じ。
ここまでなら誰でも考えつくんじゃ、と思うでしょうが……実はもう少しポイントがあって、それは「美少女」……というか、女の子。
まず、魔導書が少女(ただし余程古く、力を持った魔導書でないと実体化しない)。
クリーチャー(怪物とか)も一部の例外を除いて女の人が大半。
こう書くと「なんだ、誰にでも思いつく組み合わせじゃないか」と書かれそうですが、それでも「デモンベイン」が本当に優れているポイントというのは、これらを「真面目に」取り組んでいる事なのです。
つまり照れとか、「可愛いからこれでいいでしょ?」とか、「とりあえず女にしとけばいいだろ」みたいな「逃げ」があまり見られないんですよね。特に「燃え」と「萌え」の組み合わせはバランスが取りにくいんだけど、これを上手く調和させてしまってるし(これ、本当に難しい組み合わせなんですよ。少しバランスが崩れるとただ女の子が叫んでる「だけ」という感じになっちゃったりするし)。
シナリオ自体もまた、「逃げ」や「妥協」がほとんど感じられないほどちゃんとした内容になってます(ギャグシーンすらも)。それだけに「燃え」の度合いもまた熱くなっています。
……「いい感じに暴走している」と言う言い方もあるけど(ドクター・ウェスト関連は特に)。
そして「クトゥルー神話」への取り組みも、これまで見てきたゲームに比べると、もの凄く半端じゃない量をブチ込んで、しかもそれぞれの使い分けが本当にちゃんとしてるんですよね。
今までも「クトゥルー神話」をベースにしたゲームはあるけど、それらは基本的に、「ベース」から逸脱しない範囲で作られていたんですよね。つまり突き抜けてない。
念のため書いておくと、今までのゲームの出来が悪いという訳ではなくて、「デモンベイン」のやっている事が今までのゲームの範疇を超えている、って事なのですね。
こう書いても「それって、どういう事?」と言われそうなのでもう少し説明すると……
「デモンベイン」はクトゥルー神話であって、またある意味では「新しいクトゥルー神話」なのです。
つまりこれまでのゲームと同様クトゥルー神話をベースにした部分があって、その一方で、また新しいクトゥルー神話の構造を作ってしまってるんですね。
例えば数多く使われている、クトゥルー神話に出てくる単語は多くが元ネタに沿った使い方をしています。……例外もあるけど。
その一方で、今までのクトゥルー神話作品でのイメージをさらに膨らませた使い方もしてるのですね。特にこれがわかりやすいのが、イタクァとクトゥグア。この2つは共にイメージはこれまでのものを踏襲していながら、その特徴付けをさらに行って、新しい「イタクァ」「クトゥグア」のイメージを作ってしまってるのです(私なんか、今じゃ「イタクァ!」「クトゥグア!」って言ったらもう拳銃を構えるシーンを連想してしまうし……)。
このように、それぞれのパーツや全体のイメージは今までのクトゥルー神話から受けるイメージをかなり変えてしまうけれど、それでも全体としてはやっぱりクトゥルー神話そのものなのです。
こういう「違い」がよくわかるのが「旧神」END。今までの「旧神」の設定とは違うけれど、これはこれで「旧神」としてぴったり、という(詳しくは書かないので、クトゥルー神話を知らない人は自分で調べるなり詳しい人に聞くなりしてね)。
こういう部分が今までのクトゥルー神話をベースにしたゲームと「デモンベイン」の違いですね。
さらに「デモンベイン」では、クトゥルー神話のみならず、「不思議の国のアリス」「鏡の国のアリス」や聖書、映画ネタやアニメネタなど、本当に様々なネタをあちこちに仕掛けています。それらも、「知ってる人にはおもしろく、知らなくても楽しめる」使い方が大半。中には有名なのに、意外と気付かないようなネタもあったりするし。
特に聖書ネタの使い方(というか聖書からの引用)は、途中の章「QUO VADIS」において秀逸な使われ方をしていて、後で元ネタの意味を知ると「なるほど」と思うような使い方になっています。しかも雰囲気を盛り上げる為の使い方がまた上手いんですね。
ここまで読むと、「それじゃ何か、デモンベインはパクリ(パロディ)の集合体か?」と思うでしょう。
実際パーツ自体はパロディの集合体ですし、それは否定できません。しかしそれらを組み上げて出てきた物はパロディであって、かつオリジナルになっているのです。それはパーツごとにそれぞれ意味を与えた使い方をしているからなのでしょうね。
もちろん、見逃せない点として「テンポ」というのも挙げられるでしょう。パロディである事を主張せず、さらりと流してさっさと次の話に移るとか、文章のテンポ自体がプレイヤーのマウスクリックに委ねられているのを利用し、「(文章を)読み進める」という感覚をうまく作用させるシーンがあったり(「CHILD'S PLAY」後半のシーン)、このようにテンポをうまく調整しているというのも大きいでしょう。
つまり「演出」の為のテンポなんですな。こういう、テンポと演出の組み合わせの妙は、本当にうまく合わさっている時にはかなり効果的です。もちろん文章もそれに見合った物でないと、という条件が付きますが。そういう意味でも「デモンベイン」はうまくやってる、と言えるでしょう。
特にロボットアクションのシーンは絵と文章、テンポの組み合わせをうまく調整している好例です。
とまあ、「デモンベイン」は優れている作品ですが、瑕もないわけではなくて。
一部のルートが特に「長いなーがーいー!」と思う展開だったり……他のゲームだと「ここでエンディングだよなぁ」と思うトコで実はまだ続いてるってのが数回続くし(苦笑)
だけどこれは文句をつける部分じゃないよな、とも思うわけで。長いけど、その分燃えるし。
あと初回限定版では問題(インストーラーの不具合対応も含む)もあったみたいだけど、修正パッチは出てるし、次回生産分からは最初から修正したバージョンにしてあったり、と対応すべき点はちゃんと対応してます。
個人的には、CD枚数を考えるとDVD-ROM版で出しても良かったような気もするけど。
いや本当、ニトロプラスのゲームは初めてだったけどかなり楽しめました。
ちなみにクトゥルー神話に偏った元ネタ集を書いてます。ただしある程度クリアしてから見てください。ついでにブックガイド的な内容も入れてあるので、クトゥルー神話に関心が出たなら利用してくれると嬉しいです。
→[デモンベイン 元ネタ集](時々更新してます)
元ネタ集(用語集)もWebにいくつか出ているので、読んでみるとより楽しめると思います。
参考:デモンベインLink(デモンベイン関係のリンク集)
http://www.ringo.sakura.ne.jp/~oomichi/demonb/bmpf/tbookmarkp.cgi
それにしてもなー、「イタクァ!クトゥグア!」ってやってみたいなぁ。
あ、書き忘れというかレポート本文に入れる部分が思い浮かばなかったのでここに。
ここで言う「クトゥルー神話」はダーレス版が主です。ただしちゃんとラヴクラフト・コズミックホラーな要素も入ってます(これがまた上手いんだわ)。
あとタイトルの「斬」の字は、ロゴだと下に「大」の字がついてるんだよね。もちろんこんな字は出てこないのでここでは「斬」の字になっています。ちなみに読みは「ざんま」。
2004/3にPS2に移植、発売される事になりました。PS2版のタイトルは「機神咆吼デモンベイン」。