リバティタウンのある夜、大学駐車場の車の中から青年事業家ビル・ロビンズが他殺死体で発見された。目撃者はなし。死因は刺殺と見られる。
証拠にも乏しいこの事件は、刑事J.Bハロルドに任される事になった。
さてJ.Bはこの事件を解決出来るのだろうか?
正直な話、「殺人倶楽部(マーダークラブ)」を出すまでのリバーヒルソフトは、「マイナー」以外の何物でもない、という評価が大半でした。しかしその評価は「殺人倶楽部」以降一変し、「ミステリー・アドベンチャーのリバーヒルソフト」として知られる事となります。
では「殺人倶楽部」の何が評価されたのか?それを見ていきましょう。
その前に、少し「アドベンチャーゲーム(以下AVG)」について説明していきます。その方が話がわかりやすくなると思いますので。
かつて、「AVG」と言えばSF、ファンタジーが多く、ミステリー系は意外と少なかったように思います。その理由はそれまでのAVGのシステムが「コマンド入力方式」である事も原因だと思われます。つまり、物語の幅を広く、もしくは深くしようとすると受け付けなければいけないコマンドの種類が増えてしまったり、あるいは特殊なコマンド――例えば「問い詰める」のような物を用意しなければならず、しかもユーザーにはわかりにくくなってしまう欠点を解決しにくい事。これはプレイヤーが10人いれば10人が思いつくコマンド(もしくは文章)の「揺れ」がある以上、難しい所です。
しかし「オホーツクに消ゆ」で採用された「コマンド選択方式」でその欠点がいくらか改善されました。つまり、最初からコマンドを限定して選択させる方法にし、シナリオもその範囲で動くようにすれば、ユーザーにはわかりやすいし、開発する側も「このコマンドがないと……」と悩む事が減るようになった訳です。しかし反面、「コマンド総当たり」すれば解けるという問題もあり、その為にわざと「この場面ではこのコマンドを選んではいけない」仕掛けを入れておくなどの「意地悪」も生まれました。代表的なのが、前述の「オホーツク」の「ニポポ人形」(取ってはいけない)や、「太陽の神殿」の様々な仕掛け(仕掛けを解く順番など。ある仕掛けを先に解くともうハマリ、って事ですね)ですね。これらは「ゲーム的な仕掛け」とも言えます。
しかし「殺人倶楽部」ではそういう方向性を取る代わりに、「物語(シナリオ)を深くする」方向を取りました。すなわち――登場人物、行ける場所、メッセージの変化などをより多くし、それによって舞台の状況(=調査の状況)がどんどん変化するように作っているのです。
それによって、プレイヤーは事件の鍵が少しずつ見つかるという楽しみ(=「シナリオを解く楽しみ」)を楽しみやすくなり、同時にシナリオに触れやすくなった訳です。
つまり、あえて意地悪な仕掛けを排除し、純粋に「リバティタウン」を思う存分調査させる事によって、プレイヤーを引き込む仕組みと言えます。別の言い方をすれば、推理を楽しませる為に特化された仕組みですね。
また、このシリーズの特徴として、証拠を探し、証言を集めてある程度推理していき、怪しいと思った人物に証拠を突きつけ、時には問い詰めて……というのが基本的な流れになるのですが、もちろんこの流れは「殺人倶楽部」で確立されています。
しかしJ.Bは「刑事」ですが、だからといって最初からいきなり「お前が犯人だろ!!」などというような乱暴な事が出来るはずもなく(苦笑)、きっちり証言のウラを取っていき、誰の証言がおかしいのか?を考えなければいけないようになっています。逆に言うと、この辺りがこのシリーズの一番の特徴でしょうね。そしてもちろん、ゲームの楽しみでもあります。
もっとも、「殺人倶楽部」ではシリーズの第一作という事もあり、割と粗が結構あったりしますが……例えば、フラグの立ち方にややクセがあって、フラグが立つ条件をクリアしていても、特定のコマンドを2回選ばないとそのコマンドでの対応が変化しなかったりします。もっとも、これは次回作「マンハッタン・レクイエム」以降では改善されていますが。
また、「殺人倶楽部」だけの特徴として、「隠している事を白状した人物がゲームから退場しない」というのも挙げられるでしょう。次回作以降では、J.Bが追っている事件に関係ないと判明した人物はゲームから退場するようになっていて、よりわかりやすく、事件を追いやすくなっています。逆に言うと「殺人倶楽部」でのちょっとわかりにくい部分ですね。これはシステム上仕方ない部分なのですが。
2005年11月現在では、以下の機種で出ています。
・「殺人倶楽部(マーダークラブ)」:PC-88/98/FM-7/X1など旧機種PC
いわゆるオリジナル版。現在ではProjectEGGでPC-98版が遊べます。
ファミコン版はこの移植に相当。
・「マーダークラブDX」:X68/FM-Towns
ビジュアル機能などが強い機種への移植……というよりパワーアップ版とも言うべき作品。それだけあって、人物が実写になったり、メッセージが日本語と英語のバイリンガル表示(切り替え方式)になっていたり……といろいろと強化されています。
PCE版はこの移植に相当します(PCE版タイトルは「マーダークラブ」)。
また、アルティ社からは、PSPで出ている「ADVENTURE PLAYER」用のソフトとして移植版が出ています。(アルティ社はリバーヒルソフトのスタッフの会社で、現在J.Bハロルドシリーズなどの権利を引き継いでいる会社です)。
ヒント:
今では攻略ページもいくつかありますが(いつまでもWWWにあるとは限らないので自分で検索してください)、自力で攻略しようとして詰まる人もいるかもしれません。そういう時に攻略ページを見ても「あれ?状況が違う……」と思うかも。
実はこのゲームもそうだけど、一部の状況は、順番が前後する事も有り得ます。だからゲームの進め方によっては必ずしも攻略ページと順序が一致しない場合もあるのです。
そういう場合は、あせらずじっくりと「全員に全部のコマンドを試す」ぐらいの事をしてみましょう。意外とやり忘れてるコマンドがあったりするものです。
これは特に、必要な証拠の「骨」が出ないと悩む場面が多いかも。攻略ページだともっと前に出るハズなのに……って。これも一部のコマンドによる反応の出し忘れによるものが原因です。というか、実はこれが結構わかりにくかったりするんだわ。
それ意外は基本的に詰まる場面はない……はず。基本は「同じコマンドをつづけて2回(場合によっては3回)試す」事かな。特に後半はコレを忘れると「あれ?話が進まない」なんて場面が続くので。
2008年、NDSで「刑事J.B.ハロルドの事件簿『MuderClub』」としてリメイクされました。
操作性も良く、遊びやすい内容になってます。またDS版では100%クリアすると、オマケシナリオが見られるようになります(内容は「次回に続く」ネタ)。