Title:殺意で人が殺せたら

「殺意で人が殺せたら−−そう思ったことはありませんかね?」
「ええ、そのままでは超能力でもない限り、殺意だけでは人を殺すことは出来ません。もし出来るとしたら、それは『スキャナーズ』のようにならなければ無理ですね」
「ところがですよ。私はある方法を思いついた。それは極めて合法といいますか、私自身の手を汚す事なく、対象の人物を殺す事が出来る方法なのです」
「その方法を、あなただけにお教えしましょう。そんなのを聞いてどうするのかって−−まあ、話は最後までお聞きなさい」
「先ほども言いましたが、殺意だけでは人を殺すことは出来ません。少なくとも銃器や、刃物、あるいは超能力−−そういう物にでも頼るか、あるいは『偶然』−−世間一般で言えば、『呪い』−−そういったことに頼る以外に、意志の力だけで人を殺すことは出来ない。しかし、その『意志』を、他の人に移せるとしたら、どうなると思います?」
「おや、わかりませんか?そうですね−−例えば、あなたがAさんを殺したいと思っているとする。でも自分の手で殺すのはまずい。そういう時に、Bさん……これは、出来ればAさんとも、あなたとも何の関わりもない人の方が望ましい。そうでなければ、警察の調査で面倒なことになりかねません。まあ、これはどうでもよろしい」
「ともかく、そのBさんに、あなたの『殺意』を移してやるのですよ。そうすると、Bさんはどうなると思いますか?恐らくは、無意識のうちに、あるいは意識がある間、なぜか沸々とAさんへの殺意がわいてくる−−自分でもなぜだかわからないうちに、ね。そうなったら、後は……」
「ここまで話せば、もうおわかりでしょうな−−あなたが今いる状況が、まさにその状況なのですよ。自分で気づきませんか?ええ、あなたの手にはナイフが握られているじゃないですか。あなたはいつナイフを取り出したか、まったく覚えていないはずだ。そして、その下で血まみれになって息絶えているヒトの顔には、まったく見覚えがないはずです−−それも当然ですがね」
「なぜこうなったのかって?それはですね、私が『殺意』をあなたに移してやったからなんですよ。そういう能力を私は持っているのです−−そして、あなたに殺させた」
「実を言いますとね、本当は、あなたにこのようなことを教える必要はなかったのですよ。では、なぜわざわざ教えてあげたと思いますか?」
「私は残酷なのですよ−−この事を知れば、あなたは無実だとはっきりと自覚出来る。しかし数々の証拠は、すべてあなたを犯人に仕立て上げる−−実のところ、あなたの身体が実際に殺したんですからね。そして確実に終身刑、運が悪ければ死刑になるでしょうね。その絶望を、私は遠く離れたところで味わって楽しむのですよ。ヒトの絶望を味わう時の快感−−これが私にとって極上の味なのですから」
「やあ、パトカーの音が聞こえてきたようですな。では、私はこれから別のヒトのところへ行きましょう−−新たな料理に取りかかる為に」


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うしとら
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