ダンセイニ・イン・タルホ


 稲垣足穂作品ではダンセイニの翻訳の他にダンセイニの名、作品名、作品への言及、引用があるものをリストアップ。一部は説明を付記しています。説明がない場合は大抵「名前しか出てない」など特に詳しい言及がない事が多いです。もしくはいくらか触れているけど、基本的にその文章だけでも読めばわかる程度の物。
 ダンセイニ作品の邦題は基本的に沖積舎『ダンセイニ戯曲集』、河出文庫『世界の涯の物語』『夢見る人の物語』『時と神々の物語』『最後の夢の物語』、早川書房『二壜の調味料』の邦題を使用。

 ここで対象にするのは筑摩書房『稲垣足穂全集』『足穂拾遺物語』と青土社の『ユリイカ2006年9月臨時増刊号 稲垣足穂』。…先に書いておくが『ユリイカ2006年9月臨時増刊号 稲垣足穂』にはダンセイニ由来のはありませんでした。(書いておかないと「一通り見たはずだけどこの本にはないの?」ってなるので…)

筑摩書房「稲垣足穂全集」

1 一千一秒物語
薔薇(ダンセニイ)
詩人対地球(ダンセニー)
兎と亀の本当の話
末梢神経又よし
われらの神仙道
タルホ入門
英吉利文学に就いて

 memo:
 「薔薇」「詩人対地球」はダンセイニの「五十一話集」からの翻訳(それぞれ「薔薇」「詩人、地球とことばを交わす」)。
 同じく「兎と亀の本当の話」は「五十一話集」からの翻案(「兎と亀の駆けくらべの真相」)。また足穂はダンセイニのこの作品の翻案を何回も出している。
 「英吉利文学に就いて」にはダンセイニへの言及と共に「五十一話集」から2作のあらすじを記している(「<死>の糧」、もう1つは「連れの客」と「<死>とオレンジ」をごっちゃに記述してると思われる(というか足穂は「記憶だけで書いている」ようでこういう変な記述が時折見受けられる))。

2 ヰタ・マキニカリス
黄漠奇聞
煌ける城
北極光
青い箱と紅い骸骨
リビアの月夜
お化けに近づく人
「ヰタ・マキニカリス注解釈」内
 VITA MACHINICALS
 黄漠奇聞
 星澄む郷
 童話の天文学者

 memo:
 「煌ける城」は最後の部分が「光の門」の結末部分も混ぜた内容になっている。
 「青い箱と紅い骸骨」は「五十一話集」の「霧」からの引用あり(題名表記なし)。
 「リビアの月夜」は本人及び作品への言及あり(「置き忘れた帽子」、ただし例によって記憶で書いてるからか「色々違ってる」…)

3 ヴァニラとマニラ
緑の蔭
洋服について

 memo:
 「緑の蔭」は「四 二壜のソース」で「二壜の調味料」(作中では「二壜のソース」表記。この作品が出た当時は既にこの邦題で翻訳も出ている)に触れていて、あらすじをかなり多く書いている。ただし作中には出てこない「消化剤」が出てくる。(『二壜の調味料』及び『世界短編傑作集3』収録の「二壜のソース」を確認してみたが、どちらにも消化剤は出てこないのを確認。そもそも「薬を飲んだ」も出てこないのですが…)あらすじに関しては消化剤以外は大体合っています。
 「洋服について」では珍しく「ダンセイニ卿」表記(初出誌などを確認したが初出時からダンセイニ卿表記でした)。

4 少年愛の美学
月報:「Principia paedophilia (I)(抄)」
少年愛の美学

 memo:
 「少年愛の美学」は本文に「五十一話集」の「ひとちがい」を混ぜてある。(この本だとP.32「そもそも現代は〜時勢である」の中身がそれです)題名もダンセイニの名もなくサラッと混ぜてるので「五十一話集」を読んでいないと気付きにくい。

5 僕のユリーカ
カフェの開く途端に月が昇った
宇宙論入門

 memo:
 「カフェの開く途端に月が昇った」は6と7にダンセイニの名が出てくる。後者では早大演劇部公演のビラに『ロード・ダンセーニの「失われた絹帽」の字があった』という言及。
 「宇宙論入門」は第6章の「2――世界は諸神が打鳴す太鼓の音である」 にて言及。ダンセイニ卿表記。言及はやや量が多く、『「世界のふち」(Edge of the World)におけるかずかずの冒険談や…』(ダンセイニ『驚異の書(The Book of Wonder)』の副題"A Chronicle of Little Adventures at the Edge of the World"から一部採ったものと『驚異の書』の内容を元にした記述)、及び『ペガーナの神々』のごく簡単なあらすじを書いている(足穂は題名を『時間と神々』としているが、あらすじは明らかに『ペガーナの神々』の方です)。

6 ライト兄弟に始まる
一切なし

7 弥勒
一切なし

8 赤き星座をめぐりて
有楽町の思想
飛行機の墓地
誰にも似ないように

文学者の気持

 memo:
 「有楽町の思想」での記述は作品の題名を書いてないが、「五十一話集」の「詩人、地球とことばを交わす」から引いたもの。十月二十四日の記述がそれ(この本だとP.31に記載)。
 「飛行機の墓地」も題名の記述なし。これはダンセイニの『驚異の物語』所収「海の秘密」の描写を引いたもの(この本ではP.74-75)
 「蘆」は副題が「五十一話集」の「薔薇」からの引用。
 「文学者の気持」は「五十一話集」の「詩人、地球とことばを交わす」から引いたもの。(「有楽町の思想」等でもそうだが、足穂はこの作品と「薔薇」がお気に入りのようで結構この辺から引いてる事が多い)

9 宇治桃山はわたしの里
東京遁走曲
宇治桃山はわたしの里
日本の天上界
私の宇宙文学

 memo:
 「宇治桃山はわたしの里」は3箇所に言及あり。「一」中(P.101)、「二」中にダンセイニの原書の題名の記述(P.128)、戯曲「光の門」(作中では「きらめく門」表記)への言及(P.129-130)
 「日本の天上界」は3箇所に言及あり。「二」中P.252、P.254に2箇所(イェイツによるダンセイニ評の引用、及び『それはロード・ダンセーニの「世界のふちなる鋸形の岩山」』という記述)
 「私の宇宙文学」では「三 タルホと虚空」の中に出てくる。

10 男性における道徳
私の祖父とシャルル・パテェ
鉛の銃弾
痔の記憶

 memo:
 「私の祖父とシャルル・パテェ」ではダンセイニと作品名を出さないで短編のあらすじを語っている(『驚異の書』所収「驚異の窓」)。ただしちょっと変えている…倫敦の紳士がバグダッドで窓を買った事にしている。念の為。オリジナルではバグダッドで窓を買ったのは老人(売り手)で、主人公はロンドンでその老人から買ったという話。会話文の中で出ているので、尺の関係で縮めたのかもしれないが、判断は出来ない。
 「鉛の銃弾」では第III章の7に「ダンセーニ卿の『山の神々』」と出てくる程度。(P.421)
 「痔の記憶」では「〜物故したダンセーニ卿の〜」の後に続けて「光の門」の簡単なあらすじを書いている。(P.488)

11 蒐東雑記
香なき薔薇
僕の弥勒浄土
酒壜天国
神の夢
紅薔薇の小径
聖道門への憧れ
病院の料理番の文学
額縁だけの話
世界のはて
神への漸近線上
ユメと戦争
バブルクンドの砂の嵐
「ニセモノ」としての美女
狂気か死にまで行くべし
タルホ=コスモロジー

 memo:
 「香なき薔薇」では「〜亡くなったダンセーニ卿が〜」の後に続けて『五十一話集』の「薔薇」の簡単なあらすじを書いている(ただし少々違う…元のにはない文章がいくつか追加)。この構成は上記の「痔の記憶」のと大体一緒(引用が「光の門」か「薔薇」か、ってだけ)。ただしこちらでは作品名の記述なし。(P.26)
 「僕の弥勒浄土」では名前と共に『ペガーナの神々』(ただし足穂は『あれは「時間と神々」であったろうか』と書いてる)の簡単なあらすじを書いている。上記の「宇宙論入門」での記述と同じような内容(少々違いはあるが)。(P.69)
 「酒壜天国」では名前と共に「光の門」の原題を記して簡単なあらすじを書いている。(P.87)
 「神の夢」ではダンセイニ及び作品への言及が複数。まず『ペガーナの神々』のあらすじ(ただし記憶違いしてるのか何か、太鼓を叩くのを「八百万の神々」と書いている)、次にイエイツによるダンセイニ評を引いて続けてダンセイニ作品のあらすじを書いているが、これは混同してしまっている(『ウェレランの剣』所収「バブルクンドの崩壊」を基本に『時と神々』所収「時と神々」に出てくる神々の都サアダスリオンの名を混ぜてしまっている)。最後に『五十一話集』の「薔薇」の簡単なあらすじ。
 「紅薔薇の小径」ではダンセイニの亡くなった日、イェイツによるダンセイニ評、最後に作品名は出してないが『五十一話集』の「薔薇」あらすじ…とこれも先述の「痔の記憶」「香なき薔薇」「神の夢」等と似た記述。
 「聖道門への憧れ」では名前と共に冒頭に作品名は書いてないが『五十一話集』の「劫火のあと」のあらすじ。
 「病院の料理番の文学」では2回言及あり。『五十一話集』の原書を持っていたことと、これが一千一秒物語の形式に影響を与えていることを書いている。終盤で自著『第三半球物語』について『三半球物語』(注:当時全訳は出ていない)の原書の題名を挙げて、「これはダンセーニの"Tales of Three Hemispheres"をもじったのである」と書いている。
 「額縁だけの話」ではイェイツとの話と、「光の門」の簡単なあらすじ(作品名記載なし)。
 「世界のはて」この作品は抄訳及び翻案の混合なので判断がちょっと難しい。とりあえず列挙すると、『五十一話集』より「霧」「カロン」「成れの果て」「劫火のあと」「ギゼーのスフィンクス」「金の耳飾りの男」「詩人、地球とことばを交わす」、『驚異の物語』所収「ロマの略奪」、『ウェレランの剣』所収「バブルクンドの崩壊」(都の名が「時と神々」のサーダスリオンになってるが)、『五十一話集』より「薔薇」「兎と亀の駆けくらべの真相」の順。最後に名前記載あり。
 ただし「成れの果て」「ギゼーのスフィンクス」「詩人、地球とことばを交わす」「ロマの略奪」はいくらか変えてあるので翻案とするのが適切。それ以外は全てほぼ抄訳(少々違ってる物はある…「劫火のあと」とか。いつもの事だけど。)。
 「神への漸近線上」は冒頭にダンセイニの経歴の簡単な紹介と共に『五十一話集』の「劫火のあと」の簡単なあらすじ。
 「ユメと戦争」は冒頭に名前と『五十一話集』の「詩人、地球とことばを交わす」の簡単なあらすじ。
 「バブルクンドの砂の嵐」は題名からして「バブルクンドの崩壊」から採っているが、これは内容が「黄漠奇聞」に触れているから。冒頭は紛らわしいけど「黄漠奇聞」の結末部分を引いて、その後に「バブルクンド」の名称の由来の説明と共に「バブルクンドの崩壊」の簡単なあらすじ。他に『五十一話集』の「劫火のあと」の簡単なあらすじも記載。
 「「ニセモノ」としての美女」には名前と共に『五十一話集』の「詩人、地球とことばを交わす」の簡単なあらすじ。(P.411)
 「狂気か死にまで行くべし」では名前と共に『五十一話集』より「薔薇」の描写を少しだけ引いている。(P.440)
 「タルホ=コスモロジー」では複数言及あり。「失われし藤原氏の墓所及び雙ヶ丘」で原書"Unhappy Far-off Things"の原題記述。(P.498)「緑蔭物語」で「二壜の調味料」関連の言及。(P.514)「伏見山物語」で『五十一話集』より「薔薇」の描写を少しだけ引いている。(P.517)

12 タルホ一家言
まるい山々と鳥
蓬莱問答
「新青年」発表作品への回顧
続アドラティ=バウァナ

 memo:
 「蓬莱問答」ではダンセイニの名や作品名はないが、「兎と亀の駆けくらべの真相」のオチが引用されている。
 「続アドラティ=バウァナ」では「3 虚空レディー」のところで「光の門」からの引用あり。

13 タルホ拾遣
「小文」内『ダンセイニ幻想小説集』推薦文

 memo:
 『ダンセイニ幻想小説集』の帯に書かれているもの。以上。

筑摩書房「足穂拾遺物語」

愛蘭土製襟飾ピン六種(ダンセニイから)
荒談
ボクの弥勒浄土
神の夢

 memo:
 「愛蘭土製襟飾ピン六種」は『五十一話集』より「霧」「成れの果て」「薔薇」「カロン」「劫火のあと」「詩人、地球とことばを交わす」の抄訳。(ただし一部は少々原文と違うが…)
 「荒談」では「ペガナの神殿にて」で「ペガナ」「マアナ・ユウドスウシヤイ」と『ペガーナの神々』から固有名詞を引用している。
 「ボクの弥勒浄土」では「四」で『ペガーナの神々』のあらすじを書いている(ただし足穂は『あれは「時間と神々」であつたろうか』と書いてるが)。
 「神の夢」では抄訳というかあらすじというか、が色々出ているので…とりあえず列挙すると「ペガーナの神々」「バブルクンドの崩壊」「ギゼーのスフィンクス」「劫火のあと」「金の耳飾りの男」「薔薇」。いずれも作品名の記述なし。

 基本的にあらすじを引いたものが多いけど、多くの場合「そのまま」ではなく何かしら付け加えてる事が多い。例えば「劫火のあと」を引用する時一角獣を出す事が多いが、原文では何か特定の名称ではない…(参考までに、荒俣宏訳でも安野玲訳でも「生きもの」と訳しています。原文ではtremendous creatures)
 また時々複数の作品の内容を混ぜて書いてしまってる事もありますね。
 勿論「そのまま」な記述もちゃんとあるんですが…この辺は多分だけど、高い確率で「原文などを参照しないで記憶だけで書いている」からだと思います。実際、「バブルクンドの砂の嵐」では「何しろ五十年も前の記憶だから」と書いてるし。そもそも足穂は「蔵書を持たない」とも何回か書いてるし…
 また同じような表現を何回も使っているので、リスト作っていても時々確認しないと混乱します(苦笑)
 よく出てくるのは『五十一話集』から、特に「薔薇」「詩人、地球とことばを交わす」は翻訳も発表しているし、お気に入りだったようですね。
 リストを見るとわかるように『ペガーナの神々』のあらすじを書いてる時、作品名を『時間と神々』としてるけど、これについては足穂以外にも、昔の人(誰だったかは忘れた)がダンセイニ紹介の時、『ペガーナの神々』とせず『時間と神々』としてる例があったりしますね(内容的にはペガーナなんだけど)。…続き物とはいえ指してる物が違うから本当はペガーナと書いて欲しいけど(苦笑)

 最後に。この記事自体は元々私(うしとら)が「どれにどういうのが入ってたっけ」って確認をしないで済むようにする為の物なんで「使いにくい」「どう使えと」「読みにくい」とか言わないでね?(苦笑)
 しかし作業はなかなかにめんどくさかった……(苦笑)(全集一通り読んでメモ→そのメモを元に記述→改めて現物で確認→memoを書く、だったもんで…)

 おまけ:
 この記事を書いている2021年現在では新品で入手が容易なのは河出文庫の三冊本「21世紀タルホスコープ」の物でしょうね。この中にダンセイニ関連への言及があるものを下に記しておきます。

『ヰタ・マキニカリス』
黄漠奇聞
北極光
青い箱と紅い骸骨
リビアの月夜
お化けに近づく人

『少年愛の美学 A感覚とV感覚』
少年愛の美学(P.174に「ひとちがい」を混ぜてある)

『天体嗜好症 一千一秒物語』
わたしの耽美主義
われらの神仙主義
「私の宇宙文学」中「3 タルホと虚空」
僕の”ユリーカ”
飛行機の墓地

 一部は改題されてたりするけど、基本的には全集の方に書いてあるmemoを参考にしてください。基本的には全集の方は「最後のバージョン」を収録なので…

 おまけの補足:稲垣足穂はよく「スプートニクが成功した同じ月の二十六日」にダンセイニが亡くなった、と書いているけど実際のダンセイニの命日は25日とのこと。何故足穂が26日と記憶してるのかは不明ですが……(当時の日本国内での報道か何かを確認したいところです。なお海外での報道の一例:当サイトに置いてある「ダンセイニ死亡記事」)

修正・保存:

うしとら
usitoraあっとqj9.so-net.ne.jp
(Last update:12/02/2023 18:21)

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