シームの挿絵に関する誤解

 「ペガーナの神々」の復刊や「世界の涯の物語」などのおかげで、ダンセイニの作品と共にシームの挿絵も見るのが容易になってきましたが、それに伴って「挿絵がカラーじゃないのが残念」「挿絵を原色で見てみたい」と言う人も増えてきているようです。そういう記述を見るたびに「ああ、違うんだってばー!」と叫びたくなる事もしばしば(苦笑)
 ここではっきり書いておきますが、少なくともダンセイニ本に関しては、最初から白黒です。
 ……とはいえ、証拠がないと信用しない人もいると思うので、ここではそれに関する事柄を取り上げます。

 まず、「ペガーナの神々」のハヤカワ文庫FT版の表紙のおかげで、「原画はカラー」だと思っている人が結構いるようなので、それについて。

 証拠その1。
 当のハヤカワ文庫FT版のカバーを開いて、その折り返しを見ると……(画像を参照)「着色/秋山道男」と書いてあるのがわかると思います。
 つまり、これは元の挿絵を複写し、それに着色した物を表紙に使っているのです。

折り返し部分の画像

 証拠その2。こちらは原書(1905年初版!)の、同じ挿絵の部分を撮影したものです。ちなみに左が原書。余談ながら、荒俣宏の「稀書自慢 紙の極楽」にも1911年第二版の、同じ部分の写真が掲載されています(こちらも当然白黒)。
 ――という訳で、「ペガーナの神々」は原書・原画の時点から白黒です。
 もちろんシームの画集にも含まれており、これらも白黒です。

原書との比較

 次に、「世界の涯の物語」の表紙もカラー……なのですが、これは説明が少々厄介かな。
 というのも、「ペガーナの神々」のようにカバー折り返しに「着色」とは書いてないのですね(カバーデザインをした方が着色かな?とは思いますが……)。
 (追記:続刊「夢見る人の物語」ではカバーデザイン、着色にも記名があります。)
 (追記2:記事を書いた2004年当時は「世界の涯の物語」カバーには彩色の旨は書いてなかったのですが、その後2005年頃(「時と神々の物語」が出た頃)に河出文庫の統一カバーデザインが一新されてまして、その後のカバーでは「世界の涯の物語」のにも彩色の旨が追加されてます。)
 そして、この挿絵は元々はダンセイニの原書には入っていない物です。
 「世界の涯の物語」のカバー折り返しにも書いてありますが、元は雑誌「The Sketch」に掲載されていたイラストで、この事はシームの画集にもきちんと載っています(余談ながら、これにはちょっとした小話が書かれています。ここでは省きますが)。
 挿絵が掲載されている雑誌は持ってないので、画集からの撮影ですが、これを見ればわかるようにこちらも白黒の物です。

画集との比較

 ついでに、洋書でも「白黒の挿絵の複写に着色」した表紙はいくつかあるので、その中から少しだけ。

 ペンギン・ブックスからついに出たダンセイニ本、「In the Land of Time and Other Fantasy Tales」の表紙は「時と神々」の中に収録されている挿絵ですね。
 これも、「Time and the Gods」原書(ただしアメリカ版ですが……)の同じ挿絵の部分を撮影した画像を見ればわかるように、元は白黒の物です。

これも元は白黒。

 ちなみにシームはカラーの絵を全く描いてない訳ではないです。事実、資料として使ったシームの画集の中にはカラーイラストも収録されています。ただしこれらはダンセイニ関係のものではありません。

 また、挿絵でいろいろ調べている時に、重大な事に気付いたのでここで記しておきます。
 「妖精族のむすめ」に収録されている「アンデルスプラッツの狂気」の挿絵についてです。
 「妖精族〜」初版及び第二刷では、次の挿絵が収められています(これらの版以外の版をお持ちの方がいましたら、情報よろしく。手持ちには初版しかないので……)。
 見た目の通り、剣を持った男と偶像の絵ですね。ちなみに画像は、「妖精族〜」からの撮影ではなく、「A Dreamer's Tales」初版本からの撮影です(こっちの方が綺麗に印刷されてますので……)。

The Silence of Ged(挿絵)

 実はこの挿絵は「間違い」なのです。これは、同じ「A Dreamer's Tales」に収録されている「剣と偶像」(翻訳は「ヤン川の舟歌」に収録。また、「夢見る人の物語」にも新訳で収録されています)の挿絵で、題名は"The Silence of Ged"となります。
 「アンデルスプラッツの狂気」の正しい挿絵は次の画像を見ればわかるように、怯えた表情の女の絵です。画像が若干大きいので注意。

正しい挿絵はこっち。

 画像を見ればわかるように、下の方に「街」が描かれているのがわかると思います。これは短編の内容とも一致する部分です(読めばわかるように、「アンデルスプラッツの街」を主題にした話ですし)。
 画像が若干不鮮明で申し訳ないのですが、現在は「夢見る人の物語」にこの短編も収録されている事ですし、綺麗な状態の挿絵はそちらを見るのが手軽です。

 最後にバカネタを1つ。
 ハヤカワ文庫FT版「ペガーナの神々」の中の「スリッドのことば」の挿絵を見た人は多いと思いますが、あの挿絵は若干細かい部分が不鮮明なんで、「スリッドは糸目(細目)」だと思っている人は多いはず。
 ……実はスリッドは、「目を見開いている」のです!!
 「嘘だろ?」とか「そんなバカな!」とか言われそう(MMR調だとこの辺りで「な、なんだってー!」が入るだろうなぁ)ですが、まずは次の画像をご覧下さい。ちなみに撮影にはシーム画集を使っています。原書だと、元のサイズが小さいので撮影が難しいのです。

おお、見目麗しく。

 はい、マジでコレがスリッドの目です。画面から少し離れて見た方がよくわかるかも。
 本当は顔全体のアップを見せた方がいいんでしょうが……撮影して見てみたら……
 「……コレ、ステキ画像だよなぁ……_| ̄|○」
 と思ってしまったんで、目の部分だけトリミングしています。
 一応、ハヤカワ文庫FT版でもよーーーく目を凝らして見れば「黒目」と目の下の方の線が描いてあるのがわかるんですけどね。

 追記というか補足(12/12/2017記)
 これまでに「Sime」の発音の日本語での表記が「シーム」「サイム」と分かれていましたが、近年遺族によるギャラリーが出ていて、YouTubeにも動画を出しており、その動画によると「サイム」と発声しているとの事でした。ここではとりあえず本の表記に合わせている為「シーム」表記としています。御容赦を。
 なおシドニー・サイム・ギャラリーはこちらです。
The Sidney Sime Gallery
http://sidneysimegallery.org.uk/

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Last Update:12/12/2017 09:11

うしとら
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