Fate/stay night
“聖杯”。
いかなる望みをも叶えるという聖杯。
聖杯の強大な力は、自ら「力」を使う者を選び出す。
その儀式は、7人揃え、そして最後の1人になるまで殺し合いをさせる事。
そして生き残った者に、聖杯は望みを叶える。
そうして――『聖杯戦争』は繰り返されてきた。
しかしその過程において、ルールは少しずつ変わっていった。
最初は魔術師同士の殺し合い。
今は最強の使い魔――サーヴァントと契約し、使役し、他者のサーヴァントを倒す。
すなわちサーヴァントによる代理戦争。
それが、今の『聖杯戦争』である。
そして、今また聖杯戦争が始まろうとしていた。
まだ契約を終えていないマスターの座、残り2席。
その1人である遠坂凛は、最強のサーヴァントたる「セイバー」を呼び出そうとしていたが……
えーと、まず最初に断っておきます。
「Fate/stay night」に関しては、物語の性質……というか構成・要素の関係で、どうしてもネタバレを避けられない部分があります。そういう訳で、このレポートでは若干ネタバレも出てしまいますが、なるだけ軽めのネタバレまでに抑えるようにしますので、ご容赦を。
まず、「Fate」の構成について軽く触れておきます。
「Fate」は大きく分けて、「聖杯戦争」の表裏の物語、そして聖杯戦争に関わる1人の物語で構成されていると言えます。
つまり「表」は聖杯戦争の表面的な部分。
「裏」は「表」では書かれない部分を中心に、聖杯戦争の別の面を書いた部分。
それとは別にもう1つの、しかし「Fate」の中心になる部分、とこう分ける事が出来るのですね(あくまで「大まかに」分けた場合で、実際にはもう少し事情が違うが……これ以上はネタバレになるので、ここではこういう表現に留めておきます)。
ここで重要なのは、これらの話のそれぞれは単独の物語として完結しているという事。
しかしそれは同時に、(他ルートでも)こうなる可能性も「あった」という要素も含んでいたりします。どういう事かはゲームを実際にやればわかるので書きませんが、この要素が含まれている為、それぞれの話がお互いに少しずつ関係している部分もあるのですね。もちろん直接には関係していない。あくまで「こっちではある人物によって語られるが、こちらでは登場人物たちは知らない(でもその人物は知っている)」、というぐらいのものですが、このおかげで深読みも出来るようになっています。ある程度の深みがある、という事ね。もっとも、それが「意図されたもの」かどうかはシナリオ担当に聞く以外に判断は出来ませんけどね(つまりただの思いこみの可能性もあるが、まぁこの際それはおいておこう)。
そういう「つながり」を可能にしているのが、サーヴァントの設定における「例外」。
実は「Fate」のおもしろい部分というのは、このような「例外」の設け方にあると思います。
というより、「例外」の使い方が上手いというのが正しいのかな。
例えば主人公である士郎の能力はある分野における「例外」だし、ある人物はまた別の分野での「例外」でかつ、特定の人物の能力に対する「例外」だったり……という感じで。つまりある能力は、別の人物に対して特に有力ではあるけど、それ以外の人物にはあまり効果がない……とこう例えたらわかるでしょうか?こういった例外が結構あったりするんだよね。
もちろん「Fate」を構成するのは例外ばかりではないけど(苦笑)
だけど、実はこういう「例外」って、別に反則ではなくて、実のところ、最初に作った設定をうまく逆に利用してるだけだったりする訳で。だからその正体がわかる場面では「あーそういう手があったか!」という。
この辺りは、TYPE-MOONが同人サークルとして活動していた時の「月姫」でも出ていましたけど、「Fate」ではもっとやり方が上手くなったと思いますね。
さて、肝心の物語はというと。
先にも書いたように、大まかに分けて「聖杯戦争の表」「聖杯戦争の裏」、そして「聖杯戦争に関わる1人の物語」の3つの物語になるのですが、この構成は概ねうまくいってると思います。ただ、微妙かなぁ……?と思う部分も少々ありますが。
少しネタバレ覚悟で書くと、「聖杯戦争に関わる1人の物語」はとてもよく出来ていた。確かに粗とかも多いんだけど、それ以上に「熱さ」がとても気持ち良かった。そして、これは確かに「Fate」だと思う反面、これを見てしまうと、他のルートではいろいろと複雑な心境になってしまったりするのですね。
ただ、これはまあ仕方ない部分だとも思うけど……何と言うか、「知りすぎてしまった」ような感覚なんだよね。他ルートではその部分に触れられる事がほとんどないから。もっとも、他ルートにこの要素も含めるのはまず無理(だからあるルートでは別の方法になっているんだと思うが)。
もう1つは、1度この「熱さ」を経験してしまうと、他ルートでは温度差がどうしても出てしまうって事かな。これも言ったらキリがない部分だし、贅沢な要求だと思うけど。
とまあ、構成については微妙な部分もあるのは確か(だからもう少し、ルートに幅が欲しかった気もする)だけど、これ以上を求めるのも酷かな?とも思う。それでなくても結構長めだし(苦笑)
この辺については、ファンディスクか何かで補完される……のを祈るとして。
余談だけど、この部分も「月姫」より良くなってる部分ですね。「月姫」だとルートが複雑になってる関係で、ちょっと話が混乱する部分が多かったけど、「Fate」ではわかりやすくすっきりした印象ですし。その反面、ちょっとルート的に物足りないと思うんだろうけど。
ついでに言えば、でも先の展開の予想について、引っかけ(ミスリードの誘い方)や伏線の張り方なども「月姫」のそれを改良して、すっきりしたものになっています。この辺りも「わかりやすい」部分ですね。
もっとも、冗長さはまだ幾らかは残ってるけど、この辺りは個人差があるから何とも言えない(私の場合、あまり冗長には感じなかったし……もっとも、これは半年前に出た「デモンベイン」を経験しているから、というのもある。あっちはもっと長く感じるからなぁ(苦笑))。
他に物語でおもしろいと思ったのは、「英雄」や「神話」などの既存の物語(…に限らないが)を利用しつつ、最初は「反則だろそれ!」と思わせる(でも実は反則でも何でもない)使い方をしている所ですね。もちろん具体例は書きませんが。
でも確かに、一部の物については前からそういう説もあるし、確かにそう捉える事も出来るんだよね。そこにまた別の解釈を加えてるし。こういう、既存の物の膨らませ方は「デモンベイン」に似ていますね(詳細はデモンベインのレポート参照)。
また、物語とは別におもしろいと思ったのは、「演出」ですね。
「Fate」は、本当に「演出の力」というのがどれだけのものかがよくわかるようになっています。
基本的には1枚絵だけど、その絵を「どう見せるか」という意味での演出。
これはもう、説明するよりも見た方が早いので説明はしませんが、「ああ見せ方がうまいなー」と思うことしきり。特にそれが最大限に活かされているのが、ヒントコーナー(笑)
……実際、「Fate」コンプした後には、「Fate」はヒントコーナー専用にしてしまったし。
でもまあ、よくこれだけの物をまとめたなあ、というのが正直な感想ですね。
もちろんそれだけに粗もなくはないんだけど、その粗以上に「楽しめた」というのが一番大きいのですが(でなきゃレポートも書かないし)。
システムも、細かい部分で「あ、こういう機能があるんだ」と感心する物があったりして(特にセーブデータの扱いは良いと思う。実はこういう機能って割と欲しかったりするので)、よく出来てるなと思う反面、これからのゲームもこういう部分が要求されるのかなと思うと……(まぁ、システムでここまで凝らなくてもいいけど、「使い勝手」については他社も頑張ってもらいたいと思う部分なんだよね)
「月姫」とどっちが好きかと聞かれても難しいなぁ。
「月姫」と「Fate」はベクトルがかなり異なるし……「月姫」は絡み合った話の面白さとシーンの美しさ(印象)、「Fate」はキャラの良さ(熱さ)と展開の面白さという感じだと思うから。
印象で「月姫」、物語の好みで「Fate」というのが近いかな?どっちが優れてるとかそういうのは単純には決められないと思う。
さてネタバレをなるだけ出さないようにして書いてみたけど……どうだろうね?(汗)
あと、このゲームの粗については、とりあえずパス。あまりうまく説明出来ないし。ああ、念のため書いておくけど、xxxxのマスターについての事じゃないです(結構言われてるけど、俺は「あれはあれで」と思ってるので)。
何というかなぁ。このゲームって、冷静に分析してもおもしろくないんだよね。島本和彦作品と一緒で、「ノれるかノれないか」の部分が大半だと思うし。特にxxx=xxxのルート。ツッコミ所もあるけど、それよりも楽しめる部分をどれだけ自分が感じられるか、が先に来るんだろうね。
実はこういう部分も、レポートを「書きにくい」理由だったりするのね。例えるなら、「島本和彦作品を細かく分析して論文を書け!」って言われたら全力で「断る!!」みたいな。理屈で説明出来ない部分も多い(メンタル的な部分、と言うのかなぁ……)から。